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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)90号 判決

埼玉県川越市今福中台2779番地1

原告

日本インテック株式会社

代表者代表取締役

松村義男

訴訟代理人弁護士

齋藤昌男

弁理士 永田武三郎

埼玉県上福岡市西2丁目7番18号

被告

岡崎龍夫

訴訟代理人弁護士

吉武賢次

神谷巖

弁理士 佐藤一雄

永井浩之

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成8年審判第2014号事件について、平成9年3月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「連続式電解水生成装置」とする実用新案登録第1815516号考案(昭和58年10月12日出願、昭和63年3月2日出願公告、平成2年5月22日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成8年2月9日に被告を被請求人として、上記実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成8年審判第2014号事件として審理したうえ、平成9年3月18月、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月6日、原告に送達された。

2  本件考案の要旨

給水側と一対の出口側ラインとを設けた解槽の内部をポーラスな隔壁で陰極室と陽極室とに仕切り、それぞれの極室に電極を設けて、直流電圧を印加し、上記陰極室及び陽極室を流れる水に対して電気分解及び電気滲透作用を皆わせるとともに、前記給水側に連続的に供給される水で前記一対の出口側ラインから電解水を排出する連続式電解水生成装置において、陰極室側に通じる出口側ラインにスイッチ手段を設け、上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし、また、陽極室側に通じる出口側ラインにバルブを設け、上記信号で上記バルブを開放するように、上記スイッチ手段と上記バルブとを連関させたことを特徴とする連続式電解水生成装置。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、〈1〉本件考案が、特公昭54-5792号公報(審決甲第1号証、本訴甲第1号証、以下「引用例1」といい、そこに記載された考案を「引用例考案1」という。)、米国特許第3755128号明細書(審決甲第2号証、本訴甲第2号証)、特開昭48-99082号公報(審決甲第3号証、本訴甲第3号証、以下「引用例3」といい、そこに記載された考案を「引用例考案3」いう。)、特開昭51-18275号公報(審決甲第4号証、本訴甲第4号証、以下「引用例4」といい、そこに記載された考案を「引用例考案4」という。)、特公昭39-29415号公報(審決甲第9号証、本訴甲第9号証、以下「引用例9」という。)及び特開昭54-119131号公報(審決甲第13号証、本訴甲第13号証、以下「引用例13」という。)にそれぞれ記載された考案並びに米国特許第3698412号明細書(審決甲第12号証、本訴甲第12号証)、昭和36年6月15日株式会社オーム社発行「電子工学ポケットブック(JR版)」956~957頁(審決甲第6号証、本訴甲第6号証)、特開昭51-125751号公報(審決甲第7号証、本訴甲第7号証)、特許第86306号明細書(審決甲第10号証、本訴甲第10号証)、特許第96141号明細書(審決甲第11号証、本訴甲第11号証)に記載された事項に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものとすることはできない、〈2〉本件明細書の実用新案登録請求の範囲に考案の必須の構成要件が記載されていないとすることはできない、〈3〉本件考案が、産業上利用することができる考案に該当しないとすることはできない、〈4〉本件考案が、引用例考案3、4と同一であるとすることはできないから、請求人(原告)の主張及び証拠方法によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本件考案の要旨の認定、引用例1の記載事項(審決書5頁9~16行)、引用例2の記載事項(同6頁7~末行)、引用例3、4の記載事項(同7頁16行~8頁5行)、引用例9、13の記載事項(同8頁末行~9頁8行)の各認定、本件考案と引用例考案1の相違点の認定(同5頁18行~6頁5行)は認める。

審決は、本件考案の技術事項を誤認したことにより、本件考案と引用例考案1の相違点についての判断を誤り(取消事由2)、本件明細書の実用新案登録請求の範囲に考案の必須の構成要件が記載されていないとすることはできないと誤って判断し(取消事由3)、本件考案が産業上利用することができる考案に該当しないとすることはできないと誤って判断し(取消事由1)、さらに本件考案と引用例考案3、4とが同一であるとすることができないと誤って判断した(取消事由2)結果、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(産業上の利用性についての判断の誤り)

(1)  連続式電解水生成装置は、電解槽に連続に水道水を供給し、電気分解を行って、連続にアルカリイオン水及び酸性水を得るものであり、起動してから所定時間が経過した後にアルカリイオン水及び酸性水が生成されるから、最初に排出されるのは水道水であって、アルカリイオン水及び酸性水ではなく、また、電気分解に先立って、電解槽のアルカリイオン水及び酸性水の出口側ラインが開放されている必要がある。これに対して、不連続バッチ式電解水生成装置は、電解槽に水道水を溜め、電気分解を行ってから、電解槽のアルカリイオン水及び酸性水の出口側ラインを同時に開放してアルカリイオン水と酸性本を得るものであり、上記両出口側ラインの連動開閉手段が必要であり、また、電気分解に先立って上記両出口側ラインを閉じておくので、最初からアルカリイオン水及び酸性水が排出される。

本件考案は、後記のとおり、連続式電解水生成装置ではなく、不連続バッチ式電解水生成装置であると解すべきであるが、仮に、本件考案が連続式電解水生成装置であるとすれば、本件考案の構成によっては正常運転が不可能であるから、これを産業上利用することはできない。

すなわち、本件考案の「陰極室側に通じる出口側ラインにスイッチ手段を設け、上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし、また、陽極室側に通じる出口側ラインにバルブを設け、上記信号で上記バルブを開放するように、上記スイッチ手段と上記バルブとを連関させた」との構成(以下、審決に従い、「構成A」という。)によれば、陰極室側に通じる出口側ライン(以下、本件明細書添附の図面の符号に従い、「ライン8」という。)にアルカリイオン水が流れてから、初めて陽極室側に通じる出口側ラインのバルブ(以下、同様に、「ライン9」、「バルブ11」という。)が開放するのであって、ライン8とライン9が同時に開放され、アルカリイオン水と酸性水が流れるのではない。

他方、本件考案の「給水側と一対の出口側ラインとを設けた解槽の内部をポーラスな隔壁で陰極室と陽極室とに仕切り、それぞれの極室に電極を設けて、直流電圧を印加し、上記陰極室及び陽極室を流れる水に対して電気分解及び電気滲透作用を行わせるとともに、前記給水側に連続的に供給される水で前記一対の出口側ラインから電解水を排出する連続式電解水生成装置」との構成(以下、構成Aと対応させて「構成A」という。)によれば、本件考案は、流れる水に対し電気分解をし、一対の出口側ライン(ライン8、9)から電解水(アルカリイオン水と酸性水)を排出することになるが、連続式電解水生成装置においては、水の電気分解に先だって出口側ライン(ライン8、9)が開放されている必要がある。したがって、構成Aの下では構成Bは技術的に成立しない。

本件考案の構成A、Bによっては、ライン8にアルカリイオン水が存在しない設置後最初の起動時においては、アルカリイオン水がライン8を流れないので、スイッチ手段が作動せず、バルブ11が開放されないから、いつまでも電気分解ができないし、また、再起動時においても、ライン8にアルカリイオン水が残存しているとは限らないから、たまたま残存しているときだけ再起動でき、そうでなければ再起動できないということになる。

仮に、起動・再起動してライン8にアルカリイオン水が流れたとしても、上記のとおり、構成Aによればライン9の開放はライン8の開放に一定時間遅れることになるところ、その時間差においては、アルカリイオン水のみ流れ、酸性水は止水したままとなるので、電解槽における水の電気分解の平衡反応の平衡が破れ、電解槽の隔壁近傍で差圧が生じて、酸性水が隔壁を通じてアルカリイオン水側に入ってアルカリイオン水と混合する結果、ライン8には弱アルカリ性電解水、中性電解水、弱酸性電解水、酸性電解水が周期的に流れるためにバルブ11が閉じてしまうことになる。

したがって、いずれにしても、本件考案が実用に供し得ず、産業上利用することができる考案に該当しないことは明らかである。

被告は、本件考案は定常状態を対象とするから、設置当初の問題は別途考慮すれば足りるとか、再起動時にはライン8にアルカリイオン水が存在している等と主張するが、いずれも本件明細書に言及されていることではないうえ、再起動時にライン8にアルカリイオン水が存在することは必ずしも保障されていることではなく、また、本件考案が定常状態を対象とするものであっても、この定常状態の前段階としての起動・再起動の手段構成が明らかでなければ、産業上利用し得るものではない。

さらに、被告は、スイッチ手段が検知するのはアルカリイオン水でなくともよいと主張をするが、本件考案の「スイッチ手段を設け、上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし」との規定からは、スイッチ手段は、アルカリイオン水が流れることを検知するものと解するのが当然で、例えば水が流れることを検知するものであってもよいとは到底解し得ない。被告のこの主張によっても、「アルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし」との構成を備える本件考案が実用に供し得ず、産業上利用することができる考案に該当しないことは明らかである。

また、審決は、「しかしながら、『アルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし』は、『アルカリイオン水』を検知するのではなく、『アルカリイオン水の流れ』を検知することであり、・・・また、『アルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし』とは、アルカリイオン水が流れない時は信号を出さないことであるので、本件考案は連続式電解水生成装置として機能する。」(審決書12頁4~13行)と判断するが、以上のとおり、誤りである。

(2)  電解槽に供給される水供給量は大きく変動することがあり、何らの対策もとらないと、水の電気分解が過度に進んでしまう過電解等により不測の事態が発生することがあるから、電解槽の水供給側に圧力スイッチ又は流量測定システムを設けて水供給量を安定に規定しておかなければならないが、本件考案はこの構成を規定しておらず、実用に供し得ないので、産業上利用することができる考案に該当しない。

審決は、この点について、「電極にどの程度の電流を、どの程度の時間流すか等は、当業者が本件考案を実施する際、適宜設計できる事項に過ぎないので、本件考案が産業上利用することができる考案ではないということはできない。」(審決書11頁8~12行)と判断するが、上記のとおり、誤りである。

2  取消事由2(進歩性又は新規性の判断の誤り)

本件考案は、実施例として、電解槽の水供給口側が圧力水源に連通され、かつ、アルカリイオン水の取水のためにライン8にカランが設けられているものを含むものである。

このような実施例において、ライン8のカランを閉じて(この状態ではバルブ11も閉じている。)、電解槽に水道水を溜め、電気分解を行ってからカランを開けば、ライン8にアルカリイオン水が流れ、スイッチ手段の出す信号によってライン9のバルブ11を開放することができるが、これは、電解槽に水道水を溜め、電気分解を行ってから、電解槽の出口側のアルカリイオン水側ラインと酸性水側ラインをほぼ同時に開放してアルカリイオン水と酸性水を得ることと実質的に同一であり、したがって、本件考案は、本質的に不連続バッチ式電解水生成装置である。

しかるところ、引用例考案3、4は、電解水生成装置であって、電解槽の陽極室に連通する排水管に設けられた開閉弁と陰極室に連通する排水管に設けられた開閉弁とを同時に開閉する連動開閉手段を設けている。特に、引用例3には、アルカリイオン濃度がアルカリイオン水側の排水ライン14に放出すべき所定値に達したとき、メータスイッチ22がオフになることにより、ライン14と酸性水側の排水ライン15にそれぞれ設けた開閉弁16、17が開き、アルカリイオン水と酸性水がライン14、15に流れる構成が記載されており、これは、ライン14にアルカリイオン水が流れるとき、メータスイッチ22の出すオフ信号によって酸性水側のラインの開閉弁17を開放することであるので、本件考案の構成Aとほとんど一致している。

審決は、本件考案が連続式電解水生成装置であるのに対し、引用例考案3、4が、電解槽の下部に貯水タンクを備えたものであって、連続式電解水生成装置でないと認定しているが(審決書8頁6~9頁、同13頁17~19行)、本件考案が連続式電解水生成装置ではなく、引用例考案3、4と同様、不連続バッチ式電解水生成装置であることは上記のとおりである。そして、不連続バッチ式電解水生成装置においては、必然的に連動開閉手段を採用しなければならず、本件考案の構成Aと引用例考案3、4の連動開閉手段とは同一の技術的意義を有するものである。

そうすると、本件考案は、引用例考案3、4と実質的に同一であるものというべきであり、審決が、本件考案と引用例考案3、4とが同一であるとすることができないとした判断は誤りである。

仮にそうでないとしても、本件考案と引用例考案1とは、本件考案が「陰極室側に通じる出口側ラインにスイッチ手段を設け、上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし、また、陽極室側に通じる出口側ラインにバルブを設け、上記信号で上記バルブを開放するように、上記スイッチ手段と上記バルブとを連関させた」との構成(構成A)を備えており、引用例考案1がこれを備えていない点のみで相違するものであるから(審決書5頁18行~6頁5行)、引用例考案1に引用例考案3、4の上記連動開閉手段を適用して、本件考案の構成とすることは、当業者において、極めて容易に考案することができたものである。

のみならず、構成A自体は、単にスイッチ手段とバルブを組み合せ、ライン8、9の連動開放手段としたものであって、引用例9、13に開示されているように、従来周知の技術手段である。そうすると、上記相違点について、技術分野を同じくする引用例考案3、4の連動開閉手段を採用し、これに従来周知の上記技術手段を転用して、本件考案の構成Aとすることは、当業者において、極めて容易に考案することができたものである。

したがって、審決が、本件考案について、これらの引用例に記載された考案に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものとすることはできないとした判断は誤りである。

3  取消事由3(明細書の記載不備)

(1)  本件考案は、本質的には不連続バッチ式電解水生成装置であるところ、不連続バッチ式電解水生成装置においては、電解槽の出口側に連動開閉手段を設けることが必要である。

また、本件明細書に「電解槽の水供給口側を水道などの圧力水源に連通させた形式で、その圧力を利用して電解生成水の供給ラインでの水圧を確保し、貯槽およびポンプを用いることなく、しかも所望の時に電解生成水の取出しができるように」(甲第15号証2欄5~10行)すると記載されている本件考案の目的を達成するためには、電解槽の水供給口側が圧力水源に連通されていなければならず、本件考案の要旨の「給水側に連続的に供給される水」という構成では不可能であり、さらに、そのような水供給構造では、アルカリイオン水の取水ライン8にカランのような弁を設けることによって、電解糟の水供給口側を圧力水源に密閉連通させてもたれ流しを生じることなく、水道水圧でアルカリイオン水を供給するという本件考案の目的を達成できる。

したがって、「電解槽の水供給口側は圧力水源に連通されていて、かつアルカリイオン水の取水のためにライン8にはカランのような弁が設けられている」ことが本件考案の必須の構成要件であり、本件明細書の実用新案登録請求の範囲にはこの構成要件が記載されていない不備がある。

この点につき、審決は、「実用新案登録請求の範囲に『給水側に連続的に供給される』、『ラインにアルカリイオン水が流れる時』と記載されており、この構成要件を備える本件考案は明細書記載の作用を奏するものと認められる」(審決書10頁13~17行)と判断するが、上記のとおり、誤りである。

(2)  上記のとおり、本件考案の目的は、「所望の時に電解生成水の取出しができるように」することであり、そのためには、例えば、本件明細書の実施例においては、カラン12を開く前に電解槽で電気分解が行われている必要があるが、その際にはカラン12は閉じているのであるから、電気分解は、流れる水に対してではなく、貯水された水に対して行われていることになる。

したがって、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「流れる水に対して電気分解及び電気滲透作用を行わせる」との部分は誤っており、記載不備に当たるものである。

(3)  被告は、スイッチ手段が検知するのはアルカリイオン水でなくともよいと主張をするが、そうであるならば、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし」との部分が誤っていることが明らかであって、記載不備に該当する。

第4  被告の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

1  取消事由1(産業上の利用性についての判断の誤り)について

(1)  本件考案において、連続式電解水生成装置とは、定常状態において、流水を電気分解しながらアルカリイオン水や酸性水を取り出せる装置をいうものであって、電気分解に先立って、電解槽のアルカリイオン水及び酸性水の出口側ラインが開放されていることは必要がない。これに対し、例えば引用例考案3のような不連続バッチ式電解水生成装置においては、一旦供給水を電解槽に貯留して電気分解し、その後にアルカリイオン水を排出する方式であり、電解槽の貯留量を超えるアルカリイオン水を必要とするときは、一度排出した後にまた電解槽に供給水を貯留して電気分解を行い、アルカリイオン水を排出する必要がある。連続式電解水生成装置は、電気分解を進めながらアルカリイオン水を取り出すので、電解槽の容量を超えるアルカリイオン水であっても連続して得ることができる。

そして、本件考案が、その構成によって連続式電解水生成装置として機能することは、本件明細書の記載によって明らかである。

原告は、本件考案の装置の設置後の最初の起動時にはライン8にアルカリイオン水が流れないからいつまでも電気分解できないとか、再起動時はたまたまライン8にアルカリイオン水が残存しているときだけ再起動できる等と主張するが、本件考案は、定常状態における構成に焦点を当てて成したものであって、設置当初の問題は別途考慮すれば足りるのである。そして、定常状態においては、ライン8にアルカリイオン水が存在していることは明らかであり、再起動時には、これを排出することにより、スイッチ手段が「アルカリイオン水の流れ」を感知して信号を出すことになる。すなわち、上記のとおり、定常状態においてはライン8にはアルカリイオン水が存在しているのであるから、スイッチ手段は、その「流れ」を検知して信号を出せば足りるものであり、その流れる液体が「アルカリイオン水」であることまで検知する必要はない。液体の流れを検知すれば、その液体はアルカリイオン水なのである。本件考案の要旨は、その趣旨で「陰極室側に通じる出口側ラインにスイッチ手段を設け、上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし」と規定するものであるが、そのことは、当業者には容易に理解できるものである。

また、原告は、構成Aによるライン8の開放とライン9の開放との時間差において、アルカリイオン水のみ流れ、酸性水は止水したままとなるので、電解槽における水の電気分解の平衡反応の平衡が破れ、電解槽の隔壁近傍で差圧が生じて、酸性水が隔壁を通じてアルカリイオン水側に入ってアルカリイオン水と混合する等と主張する。しかし、該時間差はスイッチ手段の応答のためのごく僅かの時間であるのみならず、本件考案は、定常状態において、その要旨に「流れる水に対して電気分解及び電気滲透作用を行わせる」と規定しているとおり、アルカリイオン水が流れ始めてから電気分解用の直流電圧が印加されるものであるので、問題とする程度に酸性水がアルカリイオン水側に入る前にライン9のバルブ11が開放するから、実用上の支障は生じない。

(2)  原告は、水供給量の変動に伴う過電解等より発生する「不測の事態」を問題とするが、上記のとおり、本件考案は、定常状態において作動する装置に係る考案であり、そのような事態を前提とするものではない。

2  取消事由2(進歩性又は新規性の判断の誤り)について

本件考案が不連続バッチ式電解水生成装置ではなく、連続式電解水生成装置であることは上記のとおりである。

引用例考案3、4は、いずれも連続式電解水生成装置ではないのみならず、引用例考案3は、アルカリイオン濃度を検出するメータスイッチ22が出す信号に対応して、陽極室に通じるラインに設けた開閉弁17及び陰極室に通じるラインに設けた開閉弁16を同時に開閉するもの、引用例考案4は、電解槽のなかのアルカリイオン濃度が一定の値になる時期に、モーターにより陰極室に通じる放水管11に設けられた押圧開閉弁12と、陽極室に通じる放水管14に設けた押圧開閉弁15とを同時に開閉するものであり、ともに本件考案の構成Aを備えるものではなく、アルカリイオン水が必要なときにこれを吐出し、同時に酸性水を排水する本件考案とは、全く異なるものである。

また、引用例9は、多種の流体成分の正確な混合あるいは流体の正確な計量を技術課題とする積算制御装置の考案が記載されたものであり、本件考案と技術分野を全く異にするものである。さらに、引用例13に記載された考案は、その発明の詳細な説明に「他の流体の流れ又は存在の作用で流体管を閉鎖する装置」(甲第13号証3欄8~9行)と記載されているように、制御用流体の流れだけでなく、制御用流体の存在自体によっても、被制御用流体の開放・遮断を行うものであるから、本件考案の構成Aを備えるものではない。

したがって、本件考案と引用例考案3、4とは同一ではなく、また、本件考案が、引用例考案1に、上記各引用例に記載された考案を適用して、当業者において、極めて容易に考案することができたとすることもできない。

3  取消事由3(明細書の記載不備)について

(1)  原告は、不連続バッチ式電解水生成装置においては、電解槽の出口側に連動開閉手段を設けることが必要であると主張するが、本件考案は、不連続バッチ式電解水生成装置ではなく、また、連動開閉手段を設けてあることは、実用新案登録請求の範囲に構成Aが記載されていることにより明らかである。

本件考案は、原告主張のとおり、電解槽の水供給口側が圧力水源に連通されることを予定しており、実用新案登録請求の範囲には「給水側に連続的に供給される水」と記載されている。原告は、該構成では不可能であると主張するが、その根拠が不明である。

さらに、原告は、アルカリイオン水の取水ライン8にカランのような弁を設けることによって、電解糟の水供給口側を圧力水源に密閉連通させてもたれ流しを生じることなく、水道水圧でアルカリイオン水を供給するという本件考案の目的を達成できると主張するところ、本件考案においても、アルカリイオン水の吐出口にカランを設けることは当然予定されているが、そのような自明のことまで、実用新案登録請求の範囲に記載する必要はない。連続式電解水生成装置の「連続式」とは、アルカリイオン水を連続的に必要とするときは、連続的に吐出させることができるということであって、アルカリイオン水が不要であるときは、その吐出を中止することは、当業者のみならず、一般人であっても当然に知ることであり、特に実用新案登録請求の範囲に記載することではない。

したがって、「電解槽の水供給口側は圧力水源に連通されていて、かつアルカリイオン水の取水のためにライン8にはカランのような弁が設けられている」ことが記載されていない本件明細書の実用新案登録請求の範囲に、記載不備があるとの原告の主張は失当である。

(2)  原告は、本件考案において、電気分解が流れる水に対してではなく、貯水された水に対して行われるから、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「流れる水に対して電気分解及び電気滲透作用を行わせる」との部分は誤っており、記載不備に当たると主張するが、本件考案が、定常状態において、「流れる水に対して電気分解及び電気滲透作用を行わせる」ものであることは、上記のとおりである。

第5  当裁判所の判断

1  本件考案の概要

本件明細書(甲第15号証の1)には、「本考案は、主として飲用に供するアルカリイオン水を連続的に生成する連続式電解水生成装置に関するものである。」(同号証1欄14~16行)との記載、「この種の連続式電解装置は、水の供給は電解槽前の供給側で制御され、水の供給が不要な時には供給側のバルブを閉じて置く。また、電解水、とくにアルカリイオン水は貯槽にためて置いて、使用に供する形成であり、電解槽から貯槽には水の落差で供給するようになっている。したがって、貯槽の水レベルが一定値以下になって、はじめて供給側バルブに信号が与えられ、電解槽への水供給がなされるのである。この形式では貯槽を必要とする上、所望の水圧で給水するために、貯槽からの供給ラインにポンプを設置しなければならない。本考案は上記事情にもとづいてなされたもので、電解槽の水供給口側を水道などの圧力水源に連通させた形式で、その圧力を利用して電解生成水の供給ラインでの水圧を確保し、貯槽およびポンプを用いることなく、しかも所望の時に電解生成水の取出しができるようにした連続式電解水生成装置を提供しようとするものである。」(同1欄22行~2欄11行)との記載、及び本件考案の実施例についての「供給ライン8にはフロートスイッチなどのスイッチ手段10が設けられ、供給ライン9には上記スイッチ手段10の信号で開閉制御されるソレノイドバルブなどの開閉弁11が設けられている。」(同2欄23~27行)との記載、「このような構成では、カラン12を開放すると、供給ライン8内の電解生成水(アルカリイオン水)はカラン12を介して供給先へ圧出される(水道源の水圧が利用されて)。この時スイツチ手段10は水の流れで信号を出し、開閉弁11を開放する。これで供給ライン9内の電解生成水(酸性水)もドレン部14へ放出される。要すれば、上記スイッチ手段10の働きで、電極6、7への直流電圧印加がなされるとよい。このようにして、水道源と各供給ライン8、9とは電解槽を介して連結され、密閉路を構成しており、カラン12の開放の時のみ、スイツチ手段10が働き、電解生成水の放出がなされ、水圧は水道源のそれぞれが利用され、貯槽、ポンプなどが不要となる。」(同3欄5~18行)との記載、「本考案は、・・・スイッチ手段と開閉弁を設けることで、貯槽、ポンプなどを用いずに、所望の時、電解生成水を目的の個所に、しかも水道水圧を利用して圧力状態で供給できるという実用上の効果を奏しうる。」(同4欄9~13行)との記載がある。

これらの記載によれば、本件考案は、従来の連続式電解水生成装置が、電解水(アルカリイオン水)の貯槽を必要とするうえ、所望の水圧で給水するためには、貯槽からアルカリイオン水供給ラインにポンプを設置しなければならないとの技術課題を有していたことから、その解決のため、前示本件考案の要旨に規定された構成を採用し、これにより、水道などの圧力水源を電解槽を介して電解水供給ラインにまで連結し、その水源の圧力を利用して電解水供給ラインの水圧を確保し、貯槽及びポンプを用いることなく、所望のときにアルカリイオン水の取出しができるようにしたものであると認められ、このような構成、効果に鑑みれば、前示本件考案の要旨が「陰極室及び陽極室を流れる水に対して電気分解及び電気滲透作用を行わせる」と規定するように、本件考案は、供給水を一旦電解槽に貯留して電気分解した後にアルカリイオン水を排出する方式ではなく、電解槽の陰極室及び陽極室において流れる水を電気分解しながら、その電解水(アルカリイオン水及び酸性水)を電解槽からライン8、9に排出する方式であること、すなわち、不連続バッチ式電解水生成装置ではなく、連続式電解水生成装置の構成を備えることは明らかであるが、連続式電解水生成装置の従来装置とは異なって、貯槽に溜めることなく、電解槽から直接アルカリイオン水供給ラインであるライン8を経てアルカリイオン水を取り出すため、ライン8内のアルカリイオン水が流れたときに、酸性水の出口側ラインであるライン9が閉じていると、電解槽の陽極室に水が流れず、電解槽として機能しなくなるため、構成Aを備えることにより、ライン8内のアルカリイオン水が流れるとほぼ同時にライン9が開放されるものとしたことが認められる。

また、以上によれば、本件考案の要旨、特にその構成Aは、定常運転時において、アルカリイオン水を取り出す操作をした段階、すなわち、前回アルカリイオン水を取り出す操作をした際に流れる水に対して電気分解が行われた結果生成されたアルカリイオン水がライン8内に存在している状態において、ライン8からアルカリイオン水を取り出す操作(例えば、ライン8の下流に設けたカランの開放)をし、ライン8内のアルカリイオン水に流れが生じた時点の構成を規定したものと認められる。

なお、前示本件考案の構成、効果に鑑みれば、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「解槽」は「電解槽」を意味するものであることが明白である。

2  取消事由1(産業上の利用性についての判断の誤り)について

(1)  原告は、連続式電解水生成装置においては、水の電気分解に先だって出口側ライン(ライン8、9)が開放されている必要があり、構成Aの下では構成Bは技術的に成立しないと主張するところ、連続式電解水生成装置が、電解槽の陰極室及び陽極室において流れる水を電気分解しながら、その電解水(アルカリイオン水及び酸性水)を電解槽からライン8、9に排出する方式であり、電気分解に当たって、電解槽の陰極室及び陽極室を水が流れるためには、出口側ライン(ライン8、9)が開放されている必要があるという限りにおいては、その主張のとおりであると認められる(もっとも、厳密に水の流れが電気分解の開始に先行しなければならないかどうかは明らかではない。)が、本件考案の要旨は「陰極室及び陽極室を流れる水に対して電気分解及び電気滲透作用を行わせる」と規定しており、前示のとおり、定常運転時において、アルカリイオン水を取り出す操作をすることにより、ライン8内のアルカリイオン水が流れ、構成Aによって酸性水排出ライン9のバルブ11が開放してから、又はこれと同時に、陰極室及び陽極室の電極に直流電圧が印加され、水道などの圧力水源の圧力によって流れる水に対して電気分解が開始されるものと解されるから、構成Aの下で構成Bが技術的に成立しないとの主張は誤りである。

また、原告は、本件考案の構成A、Bによっては、設置後最初の起動時においては、アルカリイオン水がライン8を流れないのでバルブ11が開放されず、したがって、いつまでも電気分解ができないと主張する。しかし、前示のとおり、本件考案は、定常運転時において、アルカリイオン水が供給ライン8内に存在している状態において、アルカリイオン水を取り出す操作をし、ライン8内のアルカリイオン水に流れが生じた時点の構成を規定したものであって、それ自体において自然法則を利用した技術的思想の創作ということのできるものであり、その技術的思想が産業上利用し得るものであることは明らかである。原告は、最初の起動時の対処の方法が明細書に記載されていないとか、定常状態の前段階としての起動の手段構成が明らかでなければ、産業上利用し得るものではない等と主張するが、仮に、本件考案の構成において、装置を設置した後、最初に起動させる際の動作に対応しない点があるとしても、そのような場合の動作が必要に応じ適宜設定されるべきことは当業者にとって明らかなことであり、原告の該主張を採用することはできない。

さらに、原告は、再起動時において、ライン8にアルカリイオン水が残存している保障はないから、たまたま残存しているときだけ再起動でき、そうでなければ再起動できないと主張するが、定常運転時において、アルカリイオン水を取り出す操作(例えば、ライン8の下流に設けたカランの開放)をする場合に、ライン8にアルカリイオン水が存在することは前示のとおりであって、これが存在しない場合を想定する原告の主張は、その根拠が不明であり、その点において既に失当といわざるを得ない。のみならず、後記のとおり、本件考案の要旨の規定上、スイッチ手段は、定常運転時においてライン8に存在するアルカリイオン水の「流れ」を検知して作動すれば足りると解されるから、原告の該主張はいずれにしても採用できない。

原告は、構成Aによる、ライン8の開放(アルカリイオン水の流れ、すなわち電解槽からの排出の趣旨と考えられる。)とライン9の開放(電解槽からの酸性水の排出)との時間差において、アルカリイオン水のみ流れ、酸性水は止水したままとなるので、電解槽における水の電気分解の平衡反応の平衡が破れ、電解槽の隔壁近傍で差圧が生じて、酸性水が隔壁を通じてアルカリイオン水側に入ってアルカリイオン水と混合し、ライン8には弱アルカリ性電解水、中性電解水、弱酸性電解水、酸性電解水が周期的に流れるためにバルブ11が閉じてしまうとも主張する。しかしながら、該時間差とは、アルカリイオン水を取り出す操作をしたことによりライン8内のアルカリイオン水に流れが生じてから、スイッチ手段がその流れを検知して信号を出し、その信号によりライン9のバルブ11が開放するまでの間を意味するところ、本件明細書の実施例に記載されたフロートスイッチ及びソレノイドバルブを用いる方法等により、当業者において、その間の時間を極めて短くし、実用上は、アルカリイオン水を取り出す操作をするのと、バルブ11の開放とがほぼ同時といえる程度に設定し得ることは、技術常識というべきであるのみならず、前示のとおり、本件考案の装置は、定常運転時において、構成Aによりライン9のバルブ11が開放してから、又はこれと同時に、陰極室及び陽極室の電極に直流電圧が印加され、水道などの圧力水源の圧力によって流れる水に対して電気分解が開始されるものと解されるから、原告の主張するような事態となるものとは到底解し得ない。よって、該主張も採用することができない。

(2)  原告は、本件考案が、電解槽に供給される水供給量が変動し、過電解等により不測の事態が発生することに対する対策としての圧力スイッチ又は流量測定システムを設ける構成を規定していないから、実用に供し得ず、産業上利用することができる考案に該当しないと主張するが、本件考案の装置は、前示のとおり、定常運転時の構成を規定したものとして、産業上利用することができる考案に当たるものであり、原告の主張するような「不測の事態」に対する対策としての構成を欠くからといって、産業上利用することができる考案に該当しないものではない。

なお、電解槽の各電極に対する直流電圧印加の具体的態様は、当業者が適宜に設定することができる設計事項にすぎないから、「電極にどの程度の電流を、どの程度の時間流すか等は、当業者が本件考案を実施する際、適宜設計できる事項に過ぎないので、本件考案が産業上利用することができる考案ではないということはできない。」とした審決の判断に誤りはない。

(3)  本件考案が産業上利用することができる考案に該当しないとする原告の主張に対する審決の判断は、以上と同旨と解され、その判断に誤りはない。

3  取消事由2(進歩性又は新規性の判断の誤り)について

(1)  原告は、本件考案が、実施例として、電解槽の水供給口側が圧力水源に連通され、かつ、アルカリイオン水の取水のためにライン8にカランが設けられているものを含むことを根拠として、本件考案が、本質的に不連続バッチ式電解水生成装置であると主張するところ、本件考案が、実施例として主張のカランを設けたものを含むことは、本件明細書の記載及び図面の表示によって明らかであるが、本件考案が、電解槽の陰極室及び陽極室において流れる水を電気分解しながら、その電解水(アルカリイオン水及び酸性水)を電解槽からライン8、9に排出する方式であり、連続式電解水生成装置の構成を備えることは前示のとおりである。主張のカランは、前示のとおり、本件考案が、連続式電解水生成装置の従来装置とは異なって、貯槽に溜めることなく、電解槽から直接アルカリイオン水供給ラインであるライン8を経てアルカリイオン水を取り出すために、ライン8に設けられたものであって、電解槽に水道水を溜めたうえで電気分解を行うためのものでないことは明白である。

(2)  引用例3、4に「『ポーラスな隔壁を介して陰極室と陽極室とを仕切り、陰極室には陰極を、陽極室には陽極をそれぞれ配設すると共に、上記陽極室に連通する排水管に開閉弁を設け、上記陰極室と貯水タンクとを放水管で連通し、放水管に開閉弁を設けた飲料水の製造装置』が、記載されており、陽極室に連通する排水管に設けられた開閉弁と陰極室に連通する放水管に設けられた開閉弁とは、同時に解放される構成となっている」(審決書7頁16行~8頁5行、なお、「解放」は「開放」の誤記と認められる。)ことは当事者間に争いがない。

そして、引用例3(甲第3号証)には、「ポーラスな隔壁を介して陰極室と陽極室とを仕切り、陰極室には陰極を、陽極室には陽極をそれぞれ配設すると共に、上記陰極室には導出用の開閉弁を、上記陽極室には排出用の開閉弁をそれぞれ連通し、かつ上記両開閉弁は、上記陰極、陽極の通電回路に設けたメータスイッチで開閉制御されるようにしたことを特徴とする飲料水の製造装置。」(同号証特許請求の範囲)が図面とともに記載され、発明の詳細な説明には、「このような構成において、今、タンク18内の水位が低下すると、スイッチ21がオンされ、・・・給水弁8および9が開放されると共に、開閉弁16および17が閉鎖される。両室3および4に漸次注入される過程で、電極Pは水を媒介として閉回路を構成し通電が始まる。フロート10および11が浮上して、切換素子によりスイッチ12および13をオフすると、給水弁8および9は閉鎖される。」(同2頁右上欄1~9行)、「電極Pへの初期の電流量は比較的小さいが電離作用によって陰イオンが陽極室4から陰極室3へと電気滲透されて行き、陰極室3内のアルカリイオン濃度が高まると、これに比例して電流量が増加されてくる。その結果、電流量がある高数値に到達すると、メータスイッチ22がオフされ、・・・開閉弁16および17が開放し、陰極室3内の水はタンク18内に、また陽極室4内の水は排出管15を介して導出される。」(同頁右上欄10~19行)との各記載があり、また、引用例4(甲第4号証)には、「陰極を有する陰極室および陽極を有する陽極室をポーラスな隔壁で仕切ると共に、電気滲透によって陰極室側の飲料水のアルカリイオン濃度を高めるようにしたものにおいて、給水の終了後、電極への通電と共に附勢されるタイマーを具備し、該タイマーは通電終了時をつげる電気信号を出すとともに、その後所定の遅延時間を持ってリセットされるように構成したことを特徴とする飲料水の製造装置。」(同号証特許請求の範囲)が図面とともに記載され、発明の詳細な説明には、「上記陰極室の4の底には放水管11が連通されており、この放水管11の途中には押圧開閉弁12が設けられ、また放水管11は上記開閉弁12を介して貯水タンク13に連通されている。一方、陽極室6の底には排水管14が連通されており、この排水管14の途中には押圧開閉弁15が設けられている。」(同2頁左上欄5~11行)、「貯水タンク13内の水が消費されて水レベルが低下すると、・・・給水弁9が開放され、・・・給水管8を介して陰極室4に供給された水は、隔壁2を越えて・・・陽極室6に導入される。そして、陽極室6が所定レベルに達すると、・・・電極3および5への通電を行う。」(同頁左下欄16行~右下欄8行)、「所望の電離作用がなされ、陰極室4内の水のアルカリイオン濃度が所期の値いに達する時期になると、・・・スイッチLS4が開離されて電極への通電が断れると共に、スイッチLS3が切換えられ、・・・スイッチLS3が切換えられる前に、上記モータMの動作で、適当なカム機構により、各押圧開閉弁12および15が開放され、陰極室4からはタンク12へ給水がなされ、かつ、陽極室6からは排水がなされる。スイッチLS3が切換えられるとモータMは停止される。」(同2頁右下欄12行~3頁左上欄8行)との各記載がある。

前示争いのない事実と、これらの各記載及び図面の表示によれば、引用例考案3、4は、ポーラスな隔壁によって仕切られた陽極室及び陰極室に、陽極及び陰極をそれぞれ配設した電解槽によって水を電気分解し、アルカリイオン濃度の高い飲料水(アルカリイオン水)を生成する装置、すなわち電解水生成装置であるが、電解槽に供給水を溜めた状態でこれに対する電気分解を行い、その終了時点で、陽極室に連通する排水管及び陰極室に連通する放水管にそれぞれ設けた開閉弁を同時に開放し、該放水管によってアルカリイオン水を電解槽とは別個に設けた貯水タンクに導出するものであって、連続式電解水生成装置ではなく、不運続バッチ式電解水生成装置の構成を備えるものであり、かつ、排水管及び放水管の開閉弁は、引用例考案3がメータスイッチ22の作動により、引用例考案4がモータMの作動により同時に開放するものであって、「陰極室側に通じる出口側ラインにスイッチ手段を設け、上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし、陽極室側に通じる出口側ラインにバルブを設け、上記信号で上記バルブを開放するように、上記スイツチ手段と上記バルブとを連関させた」本件考案の構成(構成A)は、引用例3、4に記載がなく、その示唆もない。

したがって、引用例考案3、4が本件考案と同一といえるものでないことはもとより、引用例考案1に引用例考案3、4の前示排水管及び放水管の開閉弁の開閉手段を適用しても、当業者において、極めて容易に本件考案の構成に想到することができたものということもできない。

(3)  引用例9に「パイプ4に設けたバルブ9を、パイプ5を流れる流体の流通による信号で開閉制御する」(審決書8頁末行~9頁2行)ことが記載されていることは当事者間に争いがないが、引用例9(甲第9号証)に記載された考案は、「開閉型バルブを用い、それの繰返し開閉によりある一定の流量を計量し、あるいは他の流体と混合するための制御器において1回の繰返し周期に対する設定流量と異なる積算値分に対しては1以外のスケールフアクタを乗じて積算することにより、そのスケールフアクタによる増加分あるいは減少分を次の繰返し周期の計量分より差引き又は加えるよう構成したことを特徴とする積算制御装置」(同号証特許請求の範囲)であり、「本発明の積算制御器は主に多種の流体成分の正確な混合あるいは流体の正確な計量を目的とする」(同1頁左欄18~19行)との記載を併せ考えると、本件考案と技術分野を全く異にする考案であると認められる。

また、引用例13に「第1のラインにタンク4を設け、タンク内のフロートに取付けた永久磁石10によって、第2のラインのボール3を弁座2に対して開閉するよう構成し、第1のラインに流体が流れるとき、第2のラインの弁部材を解放する」(審決書9頁3~7行、なお、「解放」は「開放」の誤記と認められる。)ことが記載されていることは当事者間に争いがないが、引用例13(甲第13号証)の発明の詳細な説明の「本発明は、他の流体の流れまたは存在の作用で流体管を閉鎖する装置、特に、他の流体に混合せねばならず、同一箇所または異なる箇所で該流体に同時に供給されるか、またはこれと異なり、該流体と交互に供給される流体の供給を意図する装置に関する。この型式の流体の流れの代表的な例は、・・・2ストロークエンジン・・・のガソリンと油との供給で」(同号証3欄8~16行)との記載によれば、やはり本件考案と技術分野を全く異にする考案であることが明らかである。

そうすると、仮に、引用例9、13に記載された考案が属する各技術分野において、前示各技術手段が周知であるとしても、直ちに本件考案及び引用例考案1の属する電解水生成装置の技術分野において周知であるといい得るものではないから、該技術手段を技術分野の異なる引用例考案1に適用すること自体、当業者にとって極めて容易であるということはできず、そうであれば、引用例考案1に、引用例考案3、4のほか、該技術手段を適用し、本件考案の構成とすることが、当業者において極めて容易になし得たものとすることはできない。

(4)  したがって、以上の点に関する審決の判断に誤りはない。

4  取消事由3(明細書の記載不備)について

(1)  原告は、本件考案が不連続バッチ式電解水生成装置であることを前堤として、電解槽の出口側に連動開閉手段を設けることが必要であると主張するが、本件考案が連続式電解水生成装置であって、不連続バッチ式電解水生成装置でないことは前示のとおりである。

また、原告は、本件考案の電解槽の水供給口側が圧力水源に連通されること、及びアルカリイオン水の取水ライン8にカランのような弁を設けることによって、水供給口側を圧力水源に密閉連通させてもたれ流しを生じることがなくなることを根拠として、「電解槽の水供給口側は圧力水源に連通されていて、かつアルカリイオン水の取水のためにライン8にはカランのような弁が設けられている」ことが本件考案の必須の構成要件であり、本件明細書の実用新案登録請求の範囲にはこの構成要件が記載されていない不備があると主張する。しかしながら、本件考案において、圧力水源を電解槽を介して電解水供給ラインにまで連結し、その水源の圧力を利用して電解水供給ラインの水圧を確保するための構成は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「給水側に連続的に供給される水で・・・出口側ラインから電解水を排出する」との記載に示されているものと認められ、この記載によっては不十分であるとする原告の主張は採用し得ない。さらに、本件考案の構成において、アルカリイオン水がライン8からたれ流しになっているのではないこと、すなわちアルカリイオン水の必要なときだけライン8から取水し、不要なときにはその取水を止めるものであることは、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「上記ライン(注、ライン8)にアルカリイオン水が流れる時」との記載によって示されているところ、アルカリイオン水の必要なときにライン8から取水し、不要なときにはその取水を止めるために、ライン8に、カランその他の設備を設けることは、当業者において適宜に設定することのできる設計事項にすぎないから、これが実用新案登録請求の範囲に記載されていないからといって、その記載が不備であるとすることはできない。

したがって、これらの点につき、以上と同旨の審決の判断に誤りはない。

(2)  原告は、本件考案において、電気分解が流れる水に対してではなく、貯水された水に対して行われているとして、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「流れる水に対して電気分解及び電気滲透作用を行わせる」との部分が誤っていると主張するが、本件考案が連続式電解水生成装置であって、「陰極室及び陽極室を流れる水に対して電気分解及び電気滲透作用を行わせる」ものであることは前示のとおりであり、原告の該主張は採用することができない。

(3)  原告は、本件考案のスイッチ手段が検知するのがアルカリイオン水でなくともよいのであるならば、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし」との部分が誤っていると主張する。しかしながら、本件考案において、構成Aを備えた目的は、アルカリイオン水を取り出す操作(例えば、ライン8の下流に設けたカランの開放)をして、ライン8内のアルカリイオン水が流れたときに、ライン9が閉じていると、電解槽の陽極室に水が流れず、電解槽として機能しなくなるので、ライン8内のアルカリイオン水が流れるとほぼ同時にライン9が開放されるようにするためであること、他方、定常運転時において、アルカリイオン水を取り出す操作をするときに、ライン8内に存在するのはアルカリイオン永であることは、いずれも前示のとおりであるから、定常運転時においては、構成Aのスイッチ手段はライン8内に存在するアルカリイオン水の「流れ」を検知して作動すれば足り、その流れを生じたものがアルカリイオン水であることまで検知する必要のないことは、当業者にたやすく理解されるところである。そして、前示のとおり、本件考案の要旨は、定常運転時においてアルカリイオン水を取り出す操作をした段階の構成を規定したものと認められるところ、本件明細書(甲第15号証)の実用新案登録請求の範囲の記載はこれと同一であるから、その「陰極室側に通じる出口側ラインにスイッチ手段を設け、上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし」との記載は、ライン8を流れるのがアルカリイオン水であることを前提として、スイッチ手段がライン8内の流れを検知したときに信号を出すようにするという趣旨であって、その「アルカリイオン水」との文言は、「流れ」の主体を、定常運転時の状態に従って特定して記載したものであると解される。そうすると、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載の下において、本件考案には、スイッチ手段が流れを検知するだけで、それがアルカリイオン水であることまで検知するものでないものも当然含まれるのであって、これが含まれるからといって、該実用新案登録請求の範囲の記載に誤りがあるということはできない。

したがって、原告の前示主張も採用することはできない。

5  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はすべて理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成8年審判第2014号

審決

埼玉県川越市今福中台2779番地1

請求人 日本インテック株式会社

東京都港区芝3丁目2番14号 芝三丁目ビル

代理人弁理士 永田武三郎

埼玉県上福岡市西2丁目7番18号

被請求人 岡崎龍夫

東京都千代田区丸の内3-2-3 富士ビル 協和特許法律事務所内代理人弁理士 佐藤一雄

東京都千代田区丸の内3-2-3 協和特許法律事務所

代理人弁理士 吉武賢次

東京都千代田区丸の内3丁目2番3号 冨士ビル3階 協和特許法律事務所

代理人弁理士 神谷巖

東京都千代田区丸の内3丁目2番3号 冨士ビル 協和特許法律事務所

代理人弁理士 永井浩之

上記当事者間の登録第1815516号実用新案「連続式電解水生成装置」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

Ⅰ. 本件登録実用新案

木件登録第1815516号実用新案(以下、「本件考案」という。)は、昭和58年10月12日に実用新案登録出願され、平成2年5月22日に実用新案権の設定の登録がなされたものであり、本件考案の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの、

「給水側と一対の出口側ラインとを設けた解槽の内部をポーラスな隔壁で陰極室と陽極室とに仕切り、それぞれの極室に電極を設けて、直流電圧を印加し、上記陰極室および陽極室を流れる水に対して電気分解および電気滲透作用を行わせるとともに、前記給水側に連続的に供給される水で前記一対の出口側ラインから電解水を排出する連続式電解水生成装置において、陰極室側に通じる出口側ラインにスイッチ手段を設け、上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし、また、陽極室側に通じる出口側ラインにバルブを設け、上記信号で上記バルブを開放するように、上記スイッチ手段と上記バルブとを連関させたことを特徴とする連続式電解水生成装置。」

にあるものと認められる。

Ⅱ.請求人の主張

請求人は、下記に示す甲第1号証乃至甲第13号証を提示し、審判請求書及び弁ばく書において、大略次のように主張している。

(1)本件考案は、甲第1号証乃至甲第13号証に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、その登録は実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)実角新案登録請求の範囲には考案の必須の構成要件が記載されておらず、その登録は実用新案法第5条第5項で規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。

(3)本件考案は、実用新案法第3条の柱書きの「産業上利用することができる考案」に該当しないから、その登録は実用新案法第3条柱書きに違反してされたものである。

(4)本件考案は、甲第3号証乃至甲第4号証に記載された考案と同一であるから、その登録は実用新案法第3条第1項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証 特公昭54-5792号公報

甲第2号証 米国特許第3755128号

明細書

甲第3号証 特開昭48-99082号公報

甲第4号証 特開昭51-18275号公報

甲第5号証 日本化学会誌「化学と工業」

1994年第47巻第9号 1155頁

甲第6号証 昭和36年6月15日株式会社

オーム社発行 「電子工学ポケットブック(JR版)」956及び957頁

甲第7号証 特開昭51-125751号公報

甲第8号証 昭和63年12月23日付け

実用新案登録異議答弁書

甲第9号証 特公昭39-29415号公報

甲第10号証 特許第86306号明細書

甲第11号証 特許第96141号明細書

甲第12号証 米国特許第3698412号

明細書

甲第13号証 特開昭54-119131号公報

Ⅲ.当審の判断

請求人の上記主張について検討する。

(1)の主張について

甲第1号証には、「給水側と一対の出口側ラインとを設けた電解槽の内部を隔壁で陰極室と陽極室とに仕切り、それぞれの極室に電極を設けて、直流電圧を印加し、上記陰極室および陽極室を流れる水に対して電気分解および電気滲透作用を行わせるとともに、前記給水側に供給される水で前記一対の出口側ラインから電解水を連続的に排出する水処理装置」が記載されており、本件考案と甲第1号証記載の考案とを比較すると、

本件考案が、陰極室側に通じる出口側ラインにスイッチ手段を設け、上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし、陽極室側に通じる出口側ラインに設けたバルブを、上記信号で開放するように、上記スイッチ手段と上記バルブとを連関させている(以下、「構成A」という)のに対し、甲第1号証記載の考案は、前記構成Aを備えていない点で、相達している。

そこで、上記相違点を検討する。

甲第2号証には、「電解質マトリックス13で仕切った陰極室18と陽極室19に電極11、12を設けて、直流電圧を印加し、陽極室19に通じる導管33から酸素ガスを得、陰極室18に通じる導管50から水素ガスを得る水の分解装置において、導管33に差圧制御バルブ58を設け、この差圧制御バルブ58と導管50とを導管(conduit)72で連結し、陰極室18内の水素ガスと導管33内の酸素ガスとの間に所定の圧力差を維持する」構成が記載されている。(なお、甲第12号証に記載されている「差圧P1-P2に応答してスイッチ18が信号を出し、その信号でバルブ66を開閉する差圧制御バルブ」を考慮しても、甲第2号証の記載内容は上記のとおりである。)

しかしながら、甲第2号証記載の「差圧制御バルブ58」は、陰極室18内の水素ガスと導管33内の酸素ガスとの間に所定の圧力差を維持する作用を奏するものであり、導管50内を水素ガスが流れる時に開閉制御されるものとはいえないので、結局、甲第2号証には、構成Aが記載されていない。

したがって、たとえ、甲第6号証~甲第7号証及び甲第10号証~甲第11号証によって、電気分解によって電解水を得る技術と電解ガスを得る技術とが類似した技術であるといえても、本件考案が甲第1号証及び甲第2号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものではない。(なお、甲第5号証は、本件出願前に発行された刊行物ではない。)

また、甲第3号証又は甲第4号証には、「ポーラスな隔壁を介して陰極室と陽極室とを仕切り、陰極室には陰極を、陽極室には陽極をそれぞれ配設すると共に、上記陽極室に連通する排水管に開閉弁を設け、上記陰極室と貯水タンクとを放水管で連通し、放水管に開閉弁を設けた飲料水の製造装置」が記載されており、陽極室に連通する排水管に設けられた開閉弁と陰極室に連通する放水管に設けられた開閉弁とは、同時に解放される構成となっている。

しかしながら、甲第3号証又は甲第4号証に記載されたものは、電解槽の下部に貯水タンクを備えたものであって、連続式電解水生成装置ではなく、結局、甲第3号証又は甲第4号証には、連続式電解水生成装置において、陰極室側に通じる出口側ラインにスイッチ手段を設け、上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし、陽極室側に通じる出口側ラインに設けたバルブを開放するように、上記スイッチ手段と上記バルブとを連関させた構成は、記載されておらず、かつ、示唆されてもいないので、本件考案が甲第1号証及び甲第3号証又は甲第4号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものとはいえない。

さらに、甲第9号証には、「パイプ4に設けたバルブ9を、パイプ5を流れる流体の流通による信号で開閉制御する」ことが、甲第13号証には、「第1のラインにタンク4を設け、タンク内のフロートに取付けた永久磁石10によって、第2のラインのボール3を弁座2に対して開閉するよう構成し、第1のラインに流体が流れるとき、第2のラインの弁部材を解放する」ことが記載されている。

しかし、甲第9号証又は甲第13号証に記載されたものは、甲第1号証記載の考案とは技術分野を異にするものであって、前記いずれの甲号証にも、甲第1号証記載の考案に甲第9号証又は甲第13号証記載の考案を適用することを示唆する記載もないので、本件考案は甲第1号証及び甲第9号証又は甲第13号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

そして、上記構成Aを必須の構成要件とする本件考案は、「貯槽、ポンプなどを必要とせずに、所望の時、電解生成水を目的の個所に、しかも水道水圧を利用して圧力状態で供給できる」という明細書記載の効果を奏するのである。

以上のとおりであるから、本件考案が甲第1号証乃至甲第13号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない。

(2)の主張について

請求人は、「電解槽の水供給口側は圧力水源に連通されていて、かつアルカリイオン水の取水のためにライン8にはカランのような弁が設けられている」ことが、必須の構成要件である旨主張するが、実用新案登録請求の範囲に「給水側に連続的に供給される」、「ラインにアルカリイオン水が流れる時」と記載されており、この構成要件を備える本件考案は明細書記載の作用を奏するものと認められるので、請求人の主張は採用できない。

なお、請求人の主張する前記構成を備えたものは、本件考案の実施例の1つである。

(3)の主張について

請求人は、「電解槽の水供給側に圧力スイッチ又は流量測定システムを設けて水供給量を規定していないので、例えば、水の電気分解が過度に進んでしまう過電解等の事態により不測の事故が発生し、実用に供し得ない。したがって、本件考案は、産業上利用することができる考案ではない。」旨主張するが、電極にどの程度の電流を、どの程度の時間流すか等は、当業者が本件考案を実施する際、適宜設計できる事項に過ぎないので、本件考案が産業上利用することができる考案ではないということはできない。

また、請求人は、『実用新案登録請求の範囲に記載された「アルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし」では、アルカリイオン水が生成されないと、スイッチ手段が信号を出さないので、陰、陽極電極に電圧が印加されることはなく、さらに、バルブの閉塞について全く触れられていないので、給水側から入った圧力水は流れっぱなしとなる。

したがって、本件考案は、連続式電解水生成装置として正常に機能せず、産業上利用することができる考案に該当しない。』旨主張する。

しかしながら、「アルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし」は、「アルカリイオン水」を検知するのではなく、「アルカリイオン水の流れ」を検知することであり、このことは、スイッチ手段10が具体的にはフロートスイッチで構成されていることからも明らかであり、また、「アルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし」とは、アルカリイオン水が流れない時は信号を出さないことであるので、本件考案は連続式電解水生成装置として機能する。

なお、「解槽」は、「電解槽」の明らかな誤記である。

以上のとおりであるから、請求人の主張は、採用できない。

(4)の主張について

甲第3号証又は甲第4号証には、「ポーラスな隔壁を介して陰極室と陽極室とを仕切り、陰極室には陰極を、陽極室には陽極をそれぞれ配設すると共に、上記陽極室に連通する排水管に開閉弁を設け、上記陰極室と貯水タンクとを放水管で連通し、放水管に開閉弁を設けた飲料水の製造装置において、貯水タンク内の水が消費されると、電解槽に給水し、所定時間後、両開閉弁を解放して、陰極室のアルカリ水を貯水タンクに給水する飲料水の製造装置」が記載されている。

そこで、本件考案と甲第3号証又は甲第4号証記載の考案とを比較すると、本件考案が、連続式電解水生成装置であって、陰極室側に通じる出口側ラインにスイッチ手段を設け、上記ラインにアルカリイオン水が流れる時信号を出すようにし、陽極室側に通じる出口側ラインに設けバルブを、上記信号で開放するように、上記スイッチ手段と上記バルブとを連関させてるのに対し、甲第3号証又は甲第4号証記載の考案は、連続式電解水生成装置ではなく、かつ陰極室側に通じる出口側ラインに、アルカリイオン水が流れる時信号を出すスイッチ手段が設けられていない点で、相違している。

そして、甲第8号証は、被請求人の本件考案についての主張であり、この主張を持ってして、上記相違点に考案力を要しないという請求人の主張は採用できない。

したがって、本件考案が甲第3号証又は甲第4号証記載の考案と同一であるということはできない。

Ⅳ.むすび

以上のとおりであるから、請求入の主張及び証拠方法によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年3月18日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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